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「はいっ……」
笑顔を作り振り向いたものの、眼前に立ちはだかる男子の風貌に表情を引き攣らせた。
小柄なわたしが見上げる程に背が高く、ワックスで無造作に遊ばせたやや長めの黒い前髪の隙間から鋭い眼光が光っている。
いかにも今風のフェスルックである、Tシャツとハーフパンツにレギンスといった出で立ちで、背負われたリュックには、近頃のアーティストグッズの定番となったラバーバンドがじゃらじゃらとぶら下げられていた。
端的に言うと、ガラが悪い。恐い。ヤンキー上がり?
「……“YOH”さんですか?」
「はい。チケット確認お願いします」
挨拶もそこそこに淡々とチケットを広げて見せる様に、益々顔を青くする。
明らかにわたしより若そうで、もしや学生ではなどと脳内を巡らせるも、彼は微塵も気に掛ける様子はなく、単なる取引相手にしても冷たい対応を見せた。
此処は早急に支払いを済ませこの場を離れてしまうのが得策であろう。
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