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気圧され早る心に手元の動きが追い付かず、もたもたとがま口の財布から料金を取り出し何とか手渡す。
「ありがとうございましたっ。YOHさんも楽しんで下さ……」
「……“シクヤン”目当てですか?」
この瞬間で関わり自体終了だろうからとお礼だけは笑顔で告げ、一刻も早く立ち去ってしまおうというわたしの願いは叶わなかった。
意外にも彼は言葉を続け、口にしたバンド名のロゴの入ったわたしのTシャツをまじまじと眺めている。
たじろぎつつも、話をする気があったことにやや気を緩めた。
「……そうですけど……」
「まじすか! 俺も好きっすよ。シクヤン目当ての人に会えると思わんかった」
「え! YOHさんも?」
思い掛けない答えに、弾かれたように自分の声色が明るくなったのがわかった。
前の人の鋭い瞳が見開かれ、捲し立て始める。
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