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慣れた足付きで芝生に歩を進める“YOHさん”に対し、わたしはまだ人けの少ない辺りをそわそわと伺っていた。
すると開けた視界の後方に、明らかにそれと判る舞台が現れた。
何もないだだっぴろい地面にバンドセットの施されたステージ、その更に上方には抜けるような青い空。
海の近いこの会場で、何処となく潮を感じさせる風が頬を撫で、ショートカットのやや汗ばんだ髪の隙間を駆ける瞬間が心地良かった。
それだけの光景の中に、いずれ登場するであろう彼らを思い描くと、何やら感銘を受け全体を傍観したままの姿勢で惚けてしまう。
「……初めてですか?」
わたしの胸の内を見透かしたような声に、現実に引き戻されたかの如く振り向いた。
「あっ……はい、此処のフェスは」
彼はわたしの返事を耳に入れると、ふっと眩しそうに目を細めた。
また笑った……?
「帰り」
「え?」
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