第五章 心の行き着く先(1)

8/11
前へ
/213ページ
次へ
「和兎っ!?」  尋の声がとぶ。 「……大丈夫だ。尋、別にこれくらい――ぅぅっ」  起き上がろうとすると、サッカボールキックが横臥(おうが)の姿勢の和兎の腹に突き刺さる。  胃液をはきだし、えづく。  三人の澱んだ目が和兎を見下ろし、哄笑(こうしょう)が店中に響いた。 「どーだよ。おい。ちっとは反撃してみろよ」  男はぐったりした和兎の髪を乱暴に掴むと引っ張り上げ、優越感に浸った馬鹿面をさらす。  サンドバック状態というのを初めて味わった。  全身のあらゆる場所が痛いと言うよりも熱かった。  少しの間もおかず、殴られ蹴られるたび目から火花が出て、目眩がした。 「何とか言えよ! おら! オラァッ!」  情け容赦なく拳が、蹴りがとぶ。  休む間もなかった。  和兎は地面に転がされ、荒い息遣いをくりかえす。  息をするだけで身体が鈍い痛みに襲われた。  全身が痺れ、感覚が遠い。  自分は今ちゃんと手足が胴にくっついているのだろうかと、それすら心配になる。 「や、やめて、和兎を傷つけないで……!」  尋の叫びすら、まるで薄膜を通したように、歪んだ音としてしか聞こえなかった。 「あ、うるせぇ……」  男の一人が振り返ったかと思うと、「何だっ、あれ」とそれまでとは打って変わった上擦った声を上げる。  残りの仲間も男に促されて尋を見ると、「はあ!?」「え、おい、ガキは?」と困惑の声を漏らす。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

216人が本棚に入れています
本棚に追加