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「和兎っ!?」
尋の声がとぶ。
「……大丈夫だ。尋、別にこれくらい――ぅぅっ」
起き上がろうとすると、サッカボールキックが横臥の姿勢の和兎の腹に突き刺さる。
胃液をはきだし、えづく。
三人の澱んだ目が和兎を見下ろし、哄笑が店中に響いた。
「どーだよ。おい。ちっとは反撃してみろよ」
男はぐったりした和兎の髪を乱暴に掴むと引っ張り上げ、優越感に浸った馬鹿面をさらす。
サンドバック状態というのを初めて味わった。
全身のあらゆる場所が痛いと言うよりも熱かった。
少しの間もおかず、殴られ蹴られるたび目から火花が出て、目眩がした。
「何とか言えよ! おら! オラァッ!」
情け容赦なく拳が、蹴りがとぶ。
休む間もなかった。
和兎は地面に転がされ、荒い息遣いをくりかえす。
息をするだけで身体が鈍い痛みに襲われた。
全身が痺れ、感覚が遠い。
自分は今ちゃんと手足が胴にくっついているのだろうかと、それすら心配になる。
「や、やめて、和兎を傷つけないで……!」
尋の叫びすら、まるで薄膜を通したように、歪んだ音としてしか聞こえなかった。
「あ、うるせぇ……」
男の一人が振り返ったかと思うと、「何だっ、あれ」とそれまでとは打って変わった上擦った声を上げる。
残りの仲間も男に促されて尋を見ると、「はあ!?」「え、おい、ガキは?」と困惑の声を漏らす。
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