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辻成和兎(つじなりかずと)は、声を上げて泣いていた。
少年は小綺麗なポロシャツと、チノパンとどちらも有名ブランドのものの格好で、顔立ちにも育ちの良さが滲んでいる。
その都会の方が似合う雰囲気の少年がこんな山奥にいるというのがちぐはぐしていて、余計痛々しかった。
周囲は見渡す限り鬱蒼と茂った木々で方向も分からず、どうしたら山を下りられるか分からない。
大木が大きく枝を伸ばして空を隠してしまっているせいで時間帯すら分からない。
周囲の雑草は、小学三年生で小柄な方の和兎の背丈を包み隠すほどに高い。
泣き声は緑のクッションへと吸いこまれ、誰にも届かない。
と、ガサガサと草木が擦れる音がした。
和兎は泣き声を呑み込んで、音のした方を見る。
すると、深い緑の草の間から白い体毛に包まれたものが、ぴょんと躍り出た。
それがこちらに近づくにつれ、ガサガサと周囲の草が揺れる。
和兎は恐怖に支配され泣くことも忘れて、その場に立ち尽くしてしまった。
そして草の揺れがついに目の前に及んだ次の瞬間、何かが顔を出す。
「人の子どもかあ」
それは白い体毛に包まれた犬だった。
その目は綺麗な青灰色をしている。
こんな状況にもかかわらず和兎は魅入られた。
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