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立て続けに三度もすくって飲んだ。
「おいしい……っ」
「でしょ?」
犬は嬉しそうに目を細めた。
和兎は改めてその精悍な横顔を見る。
(犬が喋ってる)
今さらと言えば今さら過ぎる感想だった。
テレビで喋れる犬なるものは見たことはあるが、あれは人の言葉を話しているように聞こえるだけだ。
でもこの犬は違う。
現にちゃんと会話は成立しているどころか、和兎がリードされているくらいだ。
と、犬も水に満足したのか和兎の方を見る。
「ねえ君、名前は?」
「あ、辻成和兎、です」
「和兎かあ。ところで、こんなところに何をしてたの?」
「え?」
「一人でこんな山に何か用なの。大人に子どもだけで行くのは危ないとか言われていない?」
和兎は目を伏せた。
それは知っている。
この紅山(こうざん)――秋には紅葉で山全体が燃えるようになるというところからこの名前が付いているらしい――には子どもだけで立ち入ってはいけないという決まりがあると、先日地元の歴史を調べようという社会科の授業で習った。
何でもこの山には昔から狼の神様が住み、その狼は人が好物なのだ。
子どもの肉は大人と比べると特においしく、子どもだけで山を歩くと捧げ物だと勘違いされ食べられてしまう――らしい。
「神様と……」
「ん?」
「神様と、友達になれたらって思ったから」
「ともだち? なにそれ」
「えっと……一緒に遊んだりする子かな」
「君は人だろう。人と友達になれば良いのに」
「……友達、いません。僕は半年前に転校してきたんですけど、友達が一人も出来なくって……」
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