序章 出会い

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「あっ」 「どうしたの?」  和兎は手の平をじっと見つめた。  毛並みは柔らかく、これまで感じたことがないほどなめらかで、柔らかかった。  何度も何度も夢中になって撫でてしまう。 「すごく気持ち良いですねっ!」 「そう?」 「それに、すごく毛並みがとっても綺麗で」 「綺麗? 本当にっ?」  狼の姿でも喜んでいるのは声の弾み方で何となく分かった。 「はい。僕、こんなに綺麗な狼、初めて見ました」 「えへへ、本当? 本当に? 嬉しいなあ。そんなこと初めて言われたよっ!」 「本当ですか。ここの人たち、見る目が無いんですね」  狼は和兎の周りをはしゃぎながらピョンピョン跳ねたかと思うと、身体を擦りつけてくる。  柔らかな毛並みにくるまれる。 「ね、和兎。こうしたらもっと気持ち良いんじゃない?」  狼は和兎を包み込むようにぎゅっと抱いた。  大ぶりな尻尾を小刻みに、刷毛のように使って和兎の頬をくすぐった。 「どう? どう?」 「気持ちいいです」  和兎はくすぐったくなって、声を上げて笑ってしまう。  この町に来て、こんなに気持ち良く笑えたのはいつぶりだろうと思った。  和兎は尻尾にぎゅっと抱きつき、顔を埋める。 (良いにおい……日向のにおい)  和兎は干し終わった布団のように優しげな香りが大好きだった。 「くすぐったいよ」  狼は見た目の精悍さとは裏腹に、まるで子どものようにはしゃぎ、和兎の頬をぺろぺろと舐める。
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