233人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
所が、愛妻家の課長はそれを完全に受け流し、
「で? 幸せな未来って何なん? 転職??」
と不機嫌そうに訊いてくる。
まあ、これも想定内。
「いえ、進学しようと思いまして」
多分、想定外の一言だったのだろう。
暫しの沈黙の後、課長が訝しげに口を開いた。
「お前……。
何言うとん? 進学なんかして、どうするつもりなん??」
その質問、やっぱり想定内。
けど、イラッとする。
いやいや、ここで出しちゃダメ。声を抑えて、
「研究者になります」
と答えると、課長は「えっ!」と暫し固まった。
私から目線を外し、「いやいや、無いやろ。何やねん。いや……。でも、それもアリか」とか何とか呟いている。
そしてまた、私の方に視線を戻し、
「言いたい事は分かった。
お前、まだ若いんやな。忘れとったわ」
と苦笑い。ふぅ……と溜息を吐いた後、
「厳しい世界やとは思うけど、まあ頑張れや」
ゴソゴソと抽斗を探っている。
そして、チョコパイを1つ取り出し、手渡してくれた。
餞別?
そんなこんなで、強引に退職日を決めたその後は、怒涛の勢いでの引き継ぎをした。
そんな状態でも送別会をしてくれた同僚達に対しては感謝の気持ちしかない。
最初のコメントを投稿しよう!