金魚浴衣の妹さん

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金魚浴衣の妹さん

「あっちい……」  目を開けると四角い窓から見える、そそりたつ入道雲。これみよがしに蝉が夏を謳歌している。  俺が起き出したのは時計の針が天を向いたからではない。  ただ腹の虫が騒ぎ出したのと、この時間になると古びたアパートの部屋は焦げるような太陽の日差しにさらされ、急に蒸し暑くなるからだ。  窓を開けても熱風が通り過ぎるだけだし、シャワーを浴びようと思ってもひんやりした水にたどり着くまでにはそれ相応の無駄が生じる。もちろんクーラーなんてもってのほかだ。  只今絶賛無職中の俺は、生きてゆくために無駄を省かねばならないのだ。  すんなり就職が決まり上京してきたものの仕事を始めて三か月で自主退職した。辞めた理由は俺を取り囲む環境に嫌気が差したからだ。
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