37人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
徳田は痛みをこらえ、刀を振り上げた。新たに現れた何者かへと向かって行く。
だが、今度は坊主が動いた。杖だったはずの物が一転、鈍く光る刀身が現れる。
次の瞬間、その刃が一閃――
徳田の体を、正確に切り裂いていた。
何が起きたのか理解できぬまま、徳田は倒れた。薄れゆく意識の中で彼が見たものは、自分を殺した二人の姿である。
一人は盲人の坊主だ。あらぬ方向に顔を向けながら、徳田の体を杖でつついている。
さらに、もう一人……編み笠を被っていた者が、こちらを見下ろしていた。手拭いを取り、素顔を晒している。
その顔は、徳田が今までに見たこともないほど醜かった。目の位置は左右でずれており、鼻は曲がっている。唇は歪んでおり、さらに顔全体に太い線のようなぎざぎざの傷痕が、何本も張り付いていた。
「貴様、なんと醜い……物の怪か……」
薄れゆく意識の中、徳田はそれだけを言い残す。
次の瞬間には、息絶えていた。
「物の怪だぁ? お前みたいな、ろくでなしの辻斬りにだけは言われたくないんだよ」
吐き捨てるような口調の言葉。その声は、紛れもなく女のそれであった。
その三日後。
多助は杖を突きながら、古い廃寺へと入って行く。ここはかつて刃傷沙汰があり、誰も近寄らなくなってしまった場所だ。周囲は雑草が伸び、虫の蠢く音が聞こえる。
そんな中を、多助は慎重に進んで行き境内の前で立ち止まった。
「お松、いるか?」
「いるよ」
廃寺から姿を現したのは、不気味な外見の女だ。長く伸びたざんばら髪、左右で位置が擦れている目、曲がった鼻。唇は歪んでおり、顔全体に太い線のようなぎざぎざの傷痕が、何本も張り付いていた。
だが、多助は杖を突きながら平然と歩いていく。
女の前に来ると、多助は懐から小判を一枚取り出し女に差し出した。
「お松、お前の取り分だぜ」
「ありがとさん」
そう言うと、お松と呼ばれた女は小判を受け取り、大事そうに懐に入れた。多助の方は、その場に腰を下ろす。
この多助とお松の夫婦は、殺し屋である。一応、表稼業として按摩をしてはいるが……夜になると、晴らせぬ怨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す稼業をしているのだ。
多助が渡した小判は、辻斬りの徳田を仕留めた料金である。
「お前の鉄砲、弾丸が飛ぶのは二間(約三・六メートル)までなのか?」
最初のコメントを投稿しよう!