仕事

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 徳田は痛みをこらえ、刀を振り上げた。新たに現れた何者かへと向かって行く。  だが、今度は坊主が動いた。杖だったはずの物が一転、鈍く光る刀身が現れる。  次の瞬間、その刃が一閃――  徳田の体を、正確に切り裂いていた。  何が起きたのか理解できぬまま、徳田は倒れた。薄れゆく意識の中で彼が見たものは、自分を殺した二人の姿である。  一人は盲人の坊主だ。あらぬ方向に顔を向けながら、徳田の体を杖でつついている。  さらに、もう一人……編み笠を被っていた者が、こちらを見下ろしていた。手拭いを取り、素顔を晒している。  その顔は、徳田が今までに見たこともないほど醜かった。目の位置は左右でずれており、鼻は曲がっている。唇は歪んでおり、さらに顔全体に太い線のようなぎざぎざの傷痕が、何本も張り付いていた。 「貴様、なんと醜い……物の怪か……」  薄れゆく意識の中、徳田はそれだけを言い残す。  次の瞬間には、息絶えていた。 「物の怪だぁ? お前みたいな、ろくでなしの辻斬りにだけは言われたくないんだよ」  吐き捨てるような口調の言葉。その声は、紛れもなく女のそれであった。  その三日後。  多助(たすけ)は杖を突きながら、古い廃寺へと入って行く。ここはかつて刃傷沙汰があり、誰も近寄らなくなってしまった場所だ。周囲は雑草が伸び、虫の蠢く音が聞こえる。  そんな中を、多助は慎重に進んで行き境内の前で立ち止まった。 「お(おまつ)、いるか?」 「いるよ」  廃寺から姿を現したのは、不気味な外見の女だ。長く伸びたざんばら髪、左右で位置が擦れている目、曲がった鼻。唇は歪んでおり、顔全体に太い線のようなぎざぎざの傷痕が、何本も張り付いていた。  だが、多助は杖を突きながら平然と歩いていく。  女の前に来ると、多助は懐から小判を一枚取り出し女に差し出した。 「お松、お前の取り分だぜ」 「ありがとさん」  そう言うと、お松と呼ばれた女は小判を受け取り、大事そうに懐に入れた。多助の方は、その場に腰を下ろす。  この多助とお松の夫婦は、殺し屋である。一応、表稼業として按摩をしてはいるが……夜になると、晴らせぬ怨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す稼業をしているのだ。  多助が渡した小判は、辻斬りの徳田を仕留めた料金である。 「お前の鉄砲、弾丸が飛ぶのは二間(約三・六メートル)までなのか?」
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