歓迎

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歓迎

屋根を叩く雨。 大勢で天井を殴っているように激しい。 こんな蒸し暑い日に、満員電車に揺られている。 「なんで今日に限って雨なんや。」 自転車なら十分もこげば行ける高校に通っているものの、今日のような大雨ではかっぱを被ってもびしょ濡れになるだろう。  俺がいらついているのは、それだけでなく満員電車に乗るしかないのと時間がかかることだ。 今朝は学校でイベントがあるから早く行きたかったのに。 行き場のない怒りを電車の窓にぶつける。 ガンと乾いた音がした。 「京ちゃん、今日は電車なん」 この甲高い声の主は鹿野千恵 しかいない。 鹿野は俺の小学生の頃からの幼なじみで事あるごとに声をかけてくる。 「おはよ。大雨やから仕方なくな。鹿野はこんなん毎日乗ってて大変やなぁ」 「大変かゆうたら、そーでもないよ。友達と話出来るから」 能天気にへらへらと笑う。 いつもは気分が紛れるが、今はそんな気分じゃない。むしろ、清々しいほどイライラする。 「そっか、友達はどうしてん」 「由利は、今日は委員会あるとかなんとかで朝早く来てん。だから、先に行っててもらってん」 「へぇ」 正直言って興味はなかった。 「なんか、そっけないやん。 何?もしかして二人きりやから照れてるん?」 「あほか。俺が照れる訳ないやろ」 「また、また~。そんなこと言っちゃって」 「次は〇〇駅。〇〇駅です。〇〇線の方はここでお乗り換え下さい。右側の扉が開きます」 「はよ、降りるからな」 スタスタと足早に改札へ向かった。 これ以上ついてこられたら堪らない。 「待って、京介。もー少しぐらい待ってくれてもええやん。」 後ろで呼ぶ声がする。 「待たへん。早よ来い」 なんだかんだ言ってもこいつは初恋の相手だから、置いてはいかない。 駅員がオロオロしながら一生懸命紙を配っている。 「電車が五分遅れました。 誠に申し訳ありませんでした。 ただ今、遅刻の証明の券を配っております」 「一応貰っておくか。 ってことは予鈴まで十五分しかない。 エレベーターで行こ。走るで」 「うん。わかった」 エレベーターの前にはやはり、通勤時間だからか人が並んでいる。 おじさんと、二人の女性。 男子学生が一人。 そして俺達二人。 鹿野が袖を引っ張ってくる。 「京ちゃん乗れるかなぁ」 「わからへん。けど、これ乗らんかったら遅刻やで。無理矢理でも入れてもらわな」 上からエレベーターが降りてきた。 次々と乗り込んでいく。 俺達が入ればもう定員数になるだろう。 ぎりぎりセーフってとこか。 「すいませんっ、失礼します」 最後にぎりぎり満員電車に乗るような感じで俺達は収まった。 すごく蒸し暑い。 首筋から滝のように汗が流れる。 降下しだしてしばらくたった頃のこと。 「ねぇ、京ちゃん。このエレベーターなんか変やない?」 『何がや』 『んー、なんかわからへんけど…』 後ろに乗っている学蘭の男子が、ヘッドフォンを外し徐に口を開いた。 『…ここのエレベーター表示板がないんすよ。俺や皆さん一階のボタンは押したけど。』 『どういうことや。』 少し若い方の女性がすっと言った。 『だから、一階まで数秒程で降りますよね。 でも、かれこれ一分くらい乗ってないですか。このエレベーターどこへ向かってるんでしょう?』 それを聞いた瞬間全員凍りついた。 確かに扉の上の表示板がない。 ガコンと大きくエレベーターが揺れ、 『うわぁ』 と全員が悲鳴をあげた。 幸い、その揺れでエレベーターは止まった。 落ち着いた様子で幾分か上であろう女性が言う。 『なんか、引っ掛かったような揺れやったよねぇ。故障かしら。』 中年のおじさんは狭い個室であるのに、大きな声で叫んだ。 『あぁ、そうに決まってる。俺はもう5分もすれば遅刻や。何やねん、駅に賠償請求しなあかんな。』 若い女性は青ざめているが、確かな口ぶりで呟いた。 「死ななかっただけ、マシです。 本当ならぺしゃんこになっていたかもしれません。」 正直俺はギョッとしたけど、たまにある運命選択のようで肝が冷えた。 『それは洒落にならないし笑えへん。 とりあえず、緊急のボタン押しましょう。そこにありますよ。』 俺は冷静を装っていたが、正直嫌な予感がしていた。 押したものの、何分たっても何も起こらない。スピーカーから駅員の声さえ聞こえない。 中年の男性が声を張り上げた。 『なんや、使えへんな。携帯で119番に連絡せぇ。』 俺は朝に急いでいて、リビングの机に置き忘れた。 若い方の女性は 『すいません、オフィスに置き忘れてしまって。』 学生の男子は 『俺は昨日紛失した。てか、ファミレスで盗まれた』 これはなんというか、タイミングが良すぎる。 狙われたという気さえしてくる。 年上の女性は画面をつけて顔をしかめた。 『私のは圏外だわ。』 中年の男性は使いふるした汚いガラパゴス携帯を開いた。 『俺のも圏外や。どうなっとんねん』 『ど、どうすんの。京ちゃん』 いよいよまずい状況であることが掴めてきた。 無理に笑顔を向けた。 『大丈夫やろ。助けはすぐにくるって』 『大丈夫な訳あるか、アホ。               
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