歓迎

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いまどき地下まで落ちるエレベーターがどこにあんねん。』 男性は物凄い形相で睨みつけた。 女性が駆け寄り俺と男性の間に入った。 『まぁまぁ、落ち着いて下さい』 さっきまで黙り込んでヘッドフォンをつけていた男子学生は不適な笑みを浮かべた。 『最悪のシュミレーションですね。 中年のおやじとおばさん、お姉さんに女子高生。 あと、彼氏のお兄さん』 なんか勘違いされている。 横を見ると、鹿野は顔を赤らめて俯いた。 『いや、彼女は俺の彼女やない。』 『へぇ、そうなんだ。興味ないや それより、可愛いお姉さん二人におばさん、 いかにもって感じの中年だし、陰気そうな学生のお兄さんだよね』 ケラケラと何が面白いのか笑い出す。 『大人をナメんのもたいがいにせぇよ』 低く唸るような声で拳を握っている。 『僕がいつナメたんですか』 反射で拳を振り上げた男性の前で余裕そうに笑う。 『殴るなら殴ってみろよ。 お前は民衆の前で堂々と子供に手を出したというのをここにいる皆が見てる。』 拳を下げた男性は壁を蹴りつけた。 エレベーター全体がぐらぐらと揺れる。 『くっそ、お前見とけよ』 この最悪の雰囲気に全員のため息が溜まって重くなりそうだ。 人間誰でも焦り、緊張、思いがけない出来事がどうにもならない時必ず何かが変わる。 きっと俺だって、いつもへらへらしてる鹿野だって凶悪にでも非情にもなる。 この状況をどうやって打破するか。 鉄の塊を中から破壊するのは到底無理だろう。 いずれ、酸素が足りなくなって皆、都会のど真ん中で窒息死する。 水や食料だってない。 助けを呼ぶ方法もない。 一日ももたないだろうな。  扉を無理矢理こじ開けられたら、出られる。テコを使うにしても長くて細いものがない。 ピンポンパンポーン 場違いなほど明るい放送が流れた。 「エレベーターに閉じ込められたそこの六人。 佐藤京介、鹿野千恵、山寺悠、浜中郁恵、飯田雛子、大橋賢一。 お前達の身柄は全て知っている。」 奇妙な機械音の声。 『助けだ。俺達の身柄がわかっとるなら、はよ救出せんかいな。俺はもう一分も待ちとうないわ。 ずっと待ってたんやぞ』 「今からゲームをやってもらう。        Let's party time!! 」 『そんなん言ってる暇ない、早く職場に行かせろ。』 「貴方達は私に意図的に集められた者達だ。今更、逃げれる訳がない。」 俺が忘れたのは偶然であるにしろ、職場に忘れるや無くすなんておかしい。 一概にそういえないことはわかってる。 でも、見ず知らずの大人が集まって全員の携帯が使えないのは不自然だ。 『もしかして、携帯は偶然やなかったんか』 「そーいう事になりますね。それでは、説明といこう」 『ちょい待て。まだ誰もやるなんて言ってないやろ』 「つべこべうるせぇな、お前達に選択肢はねぇんだよ。」 こいつ…口調が変わった。 明らかに怒っている。 今は俺達が断然不利だし、袋の中の鼠じゃないか。 歯向かうと何かされるかもしれない。 ひとまず、俺達はいうことをきくことにした。 天井にモニターが現れた。 何も映っていない。ただ黒い画面に呆然と口を開け見上げる俺達のマヌケな顔が見えるだけだ。 『説明といこうか。 まず、自己紹介しよう。 僕は支配人だ。このゲームの主催者。 まぁ、とりあえず貴方達が知る必要もない僕のことは置いといて。 このモニターにご注目あれ。 この部屋約縦3メートルと広めのエレベーターだ、 ここに毎分5cmずつ水を入れていく。 さて、そこのおばさん』 女性はムッと顔を上げた。 よく見ると胸に「浜中郁恵」というどこかの職員のカードをぶら下げている。 『そうお前のこと。 浜中答えてくれ、何分で水が満杯になるかな』 『えーと、3mは300cmだから5cmで割ると60分です。』 『そうだ、制限時間は60分。天井にあるボタンを押す早押クイズ大会だ。楽しみだね。 お手付きあるから、失敗したら一回分無効。』 『なんやそれ。俺はやらへんぞ。』 大橋賢一が吠えた。 高笑いがスピーカーから流れてくる。 『やらなくてもいい。 やらなければ、ここで脱落と見なしお前の首はとぶ。このようにな』 モニターには以前の参加者であろう人々がエレベーターの中で騒いでいる映像だ。 口パクで何を言っているのかは分からないがおそらく、殺せるもんなら殺してみろ、言っている。 それを言った一人の男性が壁をよじ登りモニターを壊そうと手をかけた時、一瞬にしてそこは血の海と化した。 男性の首はコロリと落ち、首から吹き出た血は下にいる少女とお爺さんに降りかかった。 まさに地獄絵図だ。 俺は思わず目を背けた。 少女とお爺さんの見開いた目が頭から離れない。 CGにしてはよく出来過ぎている。 『わかった。やろう』 おじさんはすっかり大人しくなってしまった。
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