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隠れ鬼
ある雨の日、なんらかの目的でエレベーターに閉じ込められた六人。
その六人はゲームをさせられる。
主人公である佐藤京介とその幼なじみの鹿野千恵はゲームから怪我なく生き伸びた。
事故死により、大橋賢一は死亡。
残った5人は謎の声による指示で、休んでいた。
精神的に参ってしまっていた鹿野と俺は全員共有スペースのソファで談笑していた。
『雛子さんめっちゃいい人でな、それと今度お化粧の仕方を教えてくれるねんて』
一先ず打ち解けてくれて安心した。
『ここのバイキングめっちゃいい。店の人おらんけど、ロボットが欲しい物なんでも出してくれるねん。』
手の平にチョコレートを握っている。
『これ、ベルギー産の有名なチョコレートやねん。おいしいわ。』
雛子さんが耳打ちをしてきた。
『本当に大変よね。千恵ちゃん』
『ありがとうございます。多少は回復したみたいですけどね。』
鹿野が袖を引っ張った。
『そうや、なんかね名前の書いてあるロッカー見つけてん。』
『何やそれ。どこに』
『こっち』
温泉の裏にロッカールームがあった。
佐藤京介の名前を見つけた。
そこには、鍵と携帯電話と服、タオルがあった。
『京ちゃん、その電話一緒や』
鹿野がポケットからグレーの携帯を取り出した。
電源をつけると、電話機能しかない。
『これで連絡を取り合えと言うことやな』
連絡先はここにいるメンバーの名前だった。
他の番号は打つことが出来ない。
『精巧に作られてんなぁ』
廊下の先に謎の扉を見つけた。色と形がそれだけ違い妙に大きい。
廊下のジュースジャーにコップをセットしてコーラを飲んだ。
『気温も快適、不自由はないし』
掃除はロボットがしている。
『そろそろ眠くなってきた。京ちゃん、雛子さんお休みなさい。
京ちゃん、その鍵は部屋のやからね。曲がって奥』
俺は手を振った。部屋は向こう、か。
鍵を持って部屋に向かった。鍵の番号を見て部屋に入った。
部屋は一人用で、シングルベッドや冷蔵庫、ミネラルウォーターは常備してある。
テーブルの上に封筒があった。封筒にはカードが一枚入っていた。
アラビア数字の十二のカードだった。
おそらくタロットカードだろうな。
下に一枚の印刷物を見つけた。
「このカードを使い給へ。右手に捻るべし」
何だろうなこれ。まぁ、いいや。布団に横たわると直ぐに眠りについた。
「ピンポンパンポーン、朝だ。起きる時間だ」
スピーカーから機械音が聞こえた。
悪夢は終わっていなかった。この歳になって初めて母の声を愛しいと思った。起きなさいと言ってほしい。
とりあえず、部屋の洗面所で身支度をしてダイニングルームに向かった。
すでに数人席についていた。
『おはよう、京ちゃん。キッチンでご飯作ってん。
卵もベーコンも何でもあるよ。』
ありがとう、俺はテーブルについた。
横には雛子さんがいた。
『おはよう、京介君。』
『おはようございます。』
化粧を綺麗にしている。
『あのさ、部屋を色々探索してみたんやけどね、部屋の中はずっと暮らしていけそうなの。凄ない?なんでも全部あるし、飲食はいつでも何処でも出来るよ。一個気になったのは、このタロットカード』
同じ枠のアラビア数字のタロットカードだった。
「それ、俺んとこにもあった。」
俺が手渡すと頭を傾げた。
「ほんま?柄は違うやん」
俺のタロットカードを取り上げた。
「それ、私もです。」
雛子さんがカードを見せた。続けて残りの二人もカードを見せた。
「三、十二、六、九、ジョーカー。なんやろな、検討もつかない」
山寺悠は俺達の手から素早くカードを引き抜いた。
「意気地なしのお兄さん、貴方は頭がキレそうにないけど。」
「目上への口のききかたを覚えようなぁ、山寺君」
冷たい目で子供に語りかけるようにゆっくりと言った。
流石に彼もムッとしていた。
「まぁいいや、これは多分時計の十五分毎に区切ってある。何かありませんか」
「思い当たることは無いけどな」
ふと奥の扉に目をやると、窪みがあることに気がついた。
四角い穴が全部で五つあり、四つは東西南北に離れた穴に太陽のマークの中にもう一つある。
「ここにはめるんじゃないかしら」
指差した浜中郁恵の手には痛々しい包帯がぐるぐると何重にも巻かれてある。
彼女はいまだに山寺のことを睨みつけて、許してはいない。
俺はカードを時計の順番に並べ、ジョーカーを中心にし、右手に取手を回した。
扉が開き、茫然と扉の前に立ち尽くしていた人がいた。
『由利?』
『千恵?』
高峰由利。鹿野が今朝おいて行かれた友達。制服姿だ。
『なんでここにおるん?委員会やって言ってたやん』
『せやけど、なんか教室のドア開けたらここに。え?ここの扉だけ異様やね。』
『うん。色が違うな。莉子までおるやん。』
祐一と平野さん、高岡とやっくん。
クラスメートしかいない。見覚えのある背景に目を留めた。
『京介やんか。えらい遅刻やなぁ。』
そんなことを言うのは眞中泰明こと、やっくんだ。
『やっくん、そこちゃうやろ。
扉が急に出てきて、知らないとこに繋がってて、そこに千恵や佐藤くんがおったことやろ。』
『そうか、高峰頭ええな。』
『違うわ。やっくんが鈍いの。私なんかクラス順位したから三番やからな。
本当、やっくん鈍いよね…人の気持ちも。』
高峰がやっくんの事が好きだということは周知の事実だ。
俺は 佐上祐一に近づいた。
『おはよう、一体どういうことや。』
『おはよう、正直俺も全然わけ分かってないねん。
皆で集合して、教室入ろうって手をかけたらこんなことに』
『俺も、何とも信じられへん事が起こって説明しにくいんやけど。
俺達は学校行こうとしてエレベーター乗って、まぁ何かあって、ここにいる。』
『何やねんそれ』祐一が笑っている。
背景はコンクリートの壁だった。
『この壁は学校ってことやな。ちょっとそっち行く』
俺は扉の向こうへ足を踏み出した。学校のつるつるの床に、冷たく固い壁。
『何ちゃらドアみたいに時空間超えんのかと思ってびびったけど、普通に行ける。』
横にすっと近づいてきた、眼鏡のシュッとした横顔が眉をひそめた。
『はぁ、危険を冒すなんて解せん。大胆、見えているのはパネルだとかスクリーンだとか思わなかったのか。それに、時空間を超えたら物質的な負担がかかるだとか。本当に何も考えていないね。』
『委員長、結果オーライやろ。』
祐一が静かに肩を掴んだ。委員長の高岡寛人だ。
『リスクを考えないなんて、この先が思いやられる。』
嫌な雰囲気を払拭するように後ろからひょっこりと出て来た。
『おはよう、佐藤君。本当びっくりした。千恵もいるんやもん。』
小柄で華奢な平野莉子。図書委員長を勤めている。
『せやな。俺も』
右袖を引かれて振り返ると鹿野が何かいいたげだった。
『ちょいちょい、そんで由利から話聞いてんけど、もしかしたらこっちから帰れるかも知れへん。一回学校の玄関まで行こう』
俺が頷くと一同は玄関に向かった。
祐一が肘で突いてきた。耳元に手を添えて言った。
『鹿野が嫉妬してんで、平野と仲良く話なんかするから。』
『そんなんちゃうやろ』
『あながち間違ってへんと思うけどな』
ニヤニヤと見ている顔から目をそらした時、奇妙な事に気がついた。
時計は8時過ぎなのに、人一人さえ目に付かない。
運動場も廊下も人がいない。
『来たときもこんなに人は少なかったんか』
『いいや、バスケ部と野球部はおったよ。』
やっくんが向こうを指差した。
『職員室に誰もおらん。おかしいな、教室の鍵は確かに担任の山県に貰ったのに』
下を覗こうと窓の鍵を回したが、開かない。
『窓が閉まってるってこと』
平野が小さな声で言った。
『わかんないやん。下足、職員用の玄関、生徒用、手分けして見てこよう』
全員が隣の教室に集合すると、さらに絶望的なことに全て施錠であることを確認した。
『何やねんこれ。要塞みたい』
『どうかしたんですか。謎の扉が開いたそうですが、何やら騒がしくて』
こいつの存在を忘れていた、俺は頭をかいた。
『…山寺君。残ってる皆に伝えてくれるか。こっちは脱出経路なんかや無かった。建物自体は俺の高校やけども、逃げ場はない。』
『わかりました。残りの二人方はリビングルームにいたので行ってきます。』
『中学生を手下にか。そんな仲になっていたとは』
祐一が感心した顔で手を打った。
『それより、俺達まで閉じ込められてしまったじゃないか。
陰謀か、それとも仕組まれた罠としか思えない。誰が何のために俺達を閉じ込めているんだ。』
高岡のサイエンスフィクションの脳内での推理を皆聞き流した。
『それは無いとおもうけど 』
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