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もちろん本当に図書館がある場所は、坂道を登った住宅街の奥にあって丘の上にはない。
それでも一日中図書館の中にいると、そんな事を想像して、私は現実逃避してしまうところがある。
目を閉じてイメージを膨らませた後、私は少しずつ受付を片付けて閉館準備をし始めた。
すると、入口からこちら目掛けて一人の男性が歩いてきた。
「あぁ間に合った。返却はこちらで良いのでしょうか?」
少し息の上がったその男性は、シルバーグレーの君だった。
黒い帽子と、それに合った黒のロングコートを着て首にはグレーからホワイトにグラデーションになっているマフラーを巻いている。
手には重たそうな革の鞄を持っていた。
「え?あ、はい。返却ですね?」
「はい。この本とこの本、返却します。」
和倉さんは重たそうな鞄の中から本を取り出した。どちらも綺麗なダークグリーンのブックカバーがしてある。
「あ!カバー付けたままでした。すみません」
和倉さんは恥ずかしそうにブックカバーを外している。
「あの、よろしければ私もお手伝いしましょうか?」
私はもう一冊の本を軽く指さした。
和倉さんは私を見て、ではお願いします。と言って少し困った顔で微笑んだ。
ブックカバーを外している時、私はさりげなく和倉さんの手元を盗み見た。
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