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「いえいえ、和倉さんみたいな方に利用していただけて嬉しいです」
「私みたいな人?」
「あ、その、和倉さんみたいな、紳士的なお客様に利用してもらえて嬉しいって、図書館スタッフはみんな思ってます……」
つい本音が出てしまいそうになり、私は「図書館スタッフ」を強調して答えた。
和倉さんは驚いた顔をしたあと、少し照れながら笑った。
「そんなことを皆さんが思ってくれているなら嬉しいです」
そして、午後もお世話になります。と言いながら丁寧にお辞儀をした。
私もぎこちなくお辞儀をして、和倉さんと一緒にカフェを出る。
「……司書さん?」
「はい、何でしょうか?」
「……ここ、ついてますよ」
和倉さんは自分の口元を指でトントンと触って微笑んだ。
私は一瞬なんのことか分からず首を傾げて自分の口元に触れてみた。
人差し指に、マヨネーズと小さなパンの欠けらがつく。
私の口元からマヨネーズとパンが取れたことを確認すると、和倉さんは小さく頷いて階段を降りていった。
は、恥ずかしい……
私は和倉さんのいなくなったカフェの前で真っ赤になった。
三十六歳にもなって口元に食べクズを付けてることを指摘されるなんて、しかも素敵だなと思っている人に見られてしまうなんて……。
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