第6話 オレンジ色の誕生日①

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新卒で音楽事務所に就職したが、その事務所がかなりブラックなところで、体調を崩し鬱気味になってきたため一年ちょっとで辞めてしまったらしい。 うちの図書館を次の就職先に決めた理由は、「何となく、家が近かったから」だそう。 そんな適当な理由でよく受かったなと思うが、「若い人も率先して獲得していかなければ、図書館は衰えていくばかりだからね」と館長がなぜか牧野くんの採用を強く推したため、今年の春から正社員として働き始めた。 最近の若者らしく、ちょっと何を考えているかわからないところはあるが、勤務態度は真面目で館長が期待したように、音楽関係の展示などを行う際には私達年配の図書館員の知らない、新鮮な情報を教えてくれたりして何かと助かることもある。 「滝川さんと牧野くんって、親子みたいよね」 「そうねぇ、今日も同じような変なTシャツ着てるしね」 「変じゃないですよ! これはブラックサバスっていうめちゃくちゃカッコ良いイギリスのロックバンドで……」 「良いって良いって。女の人にはね、この格好良さをわかれって言ってもわかる人は少ないんだから」 君島さんと奥寺さんに対してムキになる牧野くんを、諦めた顔で滝川さんがなだめている。 確かにこの日、二人はシャツの下に似たようなバンドTシャツを着ていた。     
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