第6話 オレンジ色の誕生日①

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それでもその優しい考えは、私の中にゆっくりと落ちて溶けていった。 こんな風に私も優しい人になれたら、こんな優しい人と一緒に居られたら幸せなんだろうなと考えた。 ただ家に帰る途中、ふと我に返り悲しみと嫌悪感が私の体をぐるぐると回った。 和倉さんは既婚者だ。 いくら私が好きになっても叶わない恋の相手。 もし、叶ったとしたら…… 私はぐちゃぐちゃになった頭の中を空にするように目を閉じた。 そしてコートの中から携帯を取り出すと、小枝ちゃんにメールを送った。 一人で考えていると、すぐに悪いことばかり考えてしまう。 このまま変な方向に気持ちが行く前に、頼りになる小枝ちゃんに相談してみようーー 私はすっかりぬるくなった紅茶を飲み干すと、カフェを出た。 「っさむ……」 外に出た瞬間、ひゅーと木枯らしが吹いた。 手袋を出そうとバッグの中を探していると、コツンと右足に何かがぶつかった。 「オレンジ?」 下を見ると、私の足下にオレンジが一つ落ちていた。 不思議に思いながら拾い上げる。 オレンジには、お店のロゴシールが付いていた。 だれかが落としたのかな? 「すみません!」 カフェの前でオレンジを持ってきょろきょろしていると、聞き覚えのある声が斜め向かいから聞こえた。     
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