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それでもその優しい考えは、私の中にゆっくりと落ちて溶けていった。
こんな風に私も優しい人になれたら、こんな優しい人と一緒に居られたら幸せなんだろうなと考えた。
ただ家に帰る途中、ふと我に返り悲しみと嫌悪感が私の体をぐるぐると回った。
和倉さんは既婚者だ。
いくら私が好きになっても叶わない恋の相手。
もし、叶ったとしたら……
私はぐちゃぐちゃになった頭の中を空にするように目を閉じた。
そしてコートの中から携帯を取り出すと、小枝ちゃんにメールを送った。
一人で考えていると、すぐに悪いことばかり考えてしまう。
このまま変な方向に気持ちが行く前に、頼りになる小枝ちゃんに相談してみようーー
私はすっかりぬるくなった紅茶を飲み干すと、カフェを出た。
「っさむ……」
外に出た瞬間、ひゅーと木枯らしが吹いた。
手袋を出そうとバッグの中を探していると、コツンと右足に何かがぶつかった。
「オレンジ?」
下を見ると、私の足下にオレンジが一つ落ちていた。
不思議に思いながら拾い上げる。
オレンジには、お店のロゴシールが付いていた。
だれかが落としたのかな?
「すみません!」
カフェの前でオレンジを持ってきょろきょろしていると、聞き覚えのある声が斜め向かいから聞こえた。
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