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「はい。今日は、私の誕生日なんです」
和倉さんが私を見て微笑む。
私は今日が十二月四日だということを思い出した。和倉さんの利用者カードに記載された生年月日が頭にさっと浮かんだ。
「あ……それは、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
道の途中で二人で軽く会釈をして微笑んだ。
好きな人の誕生日を今まで忘れていたことに私は恥ずかしくなって、少し下を向いて歩く。
和倉さんの方をちらっと見ると、どこか嬉しそうな顔で前を向いて歩いていた。
今、私は和倉さんの隣を歩いている。
そう思うと、急に緊張してきた。
周りにはどう見られているのだろう?
親子?それとも夫婦……?
そこまで考えて私ははっとした。
こんなにたくさんの荷物を持っているということは、これからたくさんの人を集めてお誕生日パーティーをするに違いない。
となると奥さんや子供、親しい友達などが家で待っているかもしれない。
このまま一緒に家の近くまで行けば辛い現実を受け止めなければならないと思うと、みぞおちのあたりがキリキリむずむずしてきた。
でも私が半ば強引に荷物を持つと言ってしまった手前、今更荷物を和倉さんに押し付ける訳にもいかない。さて困った。
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