第7話 オレンジ色の誕生日②

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幸い、家の人は玄関先まで来ないようだ。 「司書さんが手伝ってくれて助かりました」 「いえいえ、とんでもないです」 「今日は、お休みですか?」 「はい。月曜日は休館日なのでお休みです」 私が答えると、和倉さんは天井の角のあたりを見て考え事をしているような顔になった。 「あの、良かったら上がってお茶でもいかがですか?」 「え!」 突然の誘いに声が上ずる。 「司書さん、お腹は空いていますか?」 「え?えっと……」 そういえば、カフェで紅茶を飲んだだけで今朝から何も食べていない。 お腹が空いているかと聞かれると、急にお腹が空いてきたような気がした。 「お腹は少し空いていますが、どうぞお構いなく。これからお誕生日会なんですよね?」 「はい。司書さんも一緒にどうですか? 私の家族を紹介します」 和倉さんは私を見つめて微笑んだ。 心臓がキリキリと締め付けられるように痛い。 家族を紹介されたら、きっともっと辛くなる。 でも、この気持ちを断ち切るには良い機会なのかもしれない。 私が危ない恋に走らないよう、荒治療は必要なことだ。 私はそう自分に言い聞かせて小さく息を吐いた。 「少しだけ、お邪魔しても良いですか?」 「もちろんです」     
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