第8話 オレンジ色の誕生日③

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お互いに名前を呼び合い、一瞬見つめ合う。これは、何だか良くない。でもこの瞬間を大切にしたいという気持ちも同時に湧き上がる。 「あ! 楓さん、ちょっと来てくれますか?」 和倉さんは急にあたふたし始める。どうしたんですか? と言いながら台所に入ると、長細い紙袋からワインを出してほしいと言われた。 「冷やすのを忘れていました。楓さんはお酒飲めますか?」 「はい、少しなら」 「それなら良かった。戸棚の中にあるワインクーラーを出してくれますか?」 私は言われた場所からワインクーラーを取り出し、氷を入れた。そしてワインボトルを入れるとテーブルに運んだ。 「手伝わなくて良いと言っておきながら結局手伝わせてしまってすみません」 「いいえ、全然」 胸の前で手を振ると、きゅーっと小さくお腹が鳴った。 「もうすぐ焼き上がりますから。楓さんは座って待っていてください」 私は赤くなりながらもう一度小さな声で、すみません。と言うと椅子に座った。 私の隣で桜が嬉しそうに舌を出している。恥ずかしさを紛らわすため、私はしばらく桜の頭を撫で続ける。
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