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和倉さんがほっとした表情で微笑んだ。カルパッチョも牛肉のローストもお店が開けるんじゃないかと思うぐらい、文句なしに美味しかった。お腹も空いていたこともあり、私は料理をぱくぱくと口に運び、ワインも思っているより多く飲んでしまった。
ふわふわとした気持ちで、ごちそうさまでした。と胸の前で手を合わせると和倉さんがそれを見て笑った。
「すみません。正しいことなのですが、洋食の後に手を合わせるのはとても日本的だと思ってしまいました」
確かにグラスで乾杯して食事を始めたのに、終わりで急に日本人になるのは自分でも奇妙だと思った。
「本当ですね。お店だったら恥をかいているところでした」
「いいえ。私達は日本人ですから。食事の前も手を合わせるべきだったかもしれません」
和倉さんは私を真似て手を合わせ、ごちそうさまでした。と言うと食器を片付け始めた。
「洗い物は、私がやります」
私は少しよろめきながら和倉さんの持っているお皿に手を添えた。
「楓さんはお客様ですから、気にしないでください」
「いいえ、気にします」
私の答えに和倉さんが驚いた表情になる。
「こんな美味しい料理を頂いて何もしないなんて、バチが当たります」
「バチが当たる?」
「そうです。施しを受けてばかりでは、駄目なんです」
強い口調で言うと、和倉さんは酔った私を見てまた笑った。
「楓さんは、魅力的な考え方をする人ですね。それでは、お願いします」
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