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任せてください。と私は言うとお皿を台所に運び洗い始めた。和倉さんはソファに座り、ブランを撫でている。左手に目をやると、薬指にはいつも通り指輪がはめられていた。
もしかして、死別か何かで奥さんはいないのかな?
それとも今日はたまたまいないだけ?
誕生日にいないなんて、普通ないよね……
聞いてみなければわからない答えを推測しつつ洗い物を済ませ、和倉さんと食後のコーヒーを飲んでいると、外はすっかり暗くなっていた。
「楓さん、時間は大丈夫ですか?」
腕時計を見ると八時半を過ぎたところだった。
「そろそろ帰ります。長い時間居座って、すみませんでした」
「いいえ、楽しい誕生日会でした。ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
この時にはもうすっかり酔いは冷めていた。強引に洗い物をしたことが思い出され、帰る間際になって急に恥ずかしくなってきた。
「駅のあたりまで送りましょう」
和倉さんは壁に掛けてある黒いコートとマフラーを手に取った。一人で帰れますという私に、女性が夜遅く一人で歩くのは危険ですよ。と今度は和倉さんが強い口調で言った。
外に出ると、和倉さんの真向かいの家がライトアップされていた。他の家々にも電飾が巻かれたツリーやトナカイのオブジェが置かれていて、駅までの道を照らしている。
「綺麗ですね」
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