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「それにしても、って。学力的な話のこと?」
「それもあるけど」
「ちょっとは否定してよ」
「だってこたのテストの点じゃ行けるとは思ってなかったから」
「そりゃめちゃくちゃ頑張ったからね」
「よしよし」
彼女は僕の頭を犬にするかのようにわしゃわしゃと撫でる。ちょっと、と一応反抗してみるけれどそれは建前上の話で、僕はこうして華にかまってもらうのが好きだ。
「ワックス付けてるからベタつくよ」
「わ、ほんとだ」
少し目を丸くして手の平をこする華に僕はハンカチを渡す。大丈夫、と断る華にいいから、と強制的にハンカチを握りしめさせた。どうせ華のハンカチはショルダーバッグの奥深くにくしゃくしゃになって眠っている。それなら僕のを渡したほうが早い。
華にはあまり女子力というものがない。その原因は僕にあるといっても過言ではない。
自分でいうのもあれだけど、僕はそんじょそこらの女子よりも女子力がある。
ハンカチ・ティッシュは常に完備してるし、絆創膏に消毒液だって持ってる。
そんな僕に小さい時から華は頼りっぱなしだった。
なにかあるとすぐそばに僕がいた。それはこれから先も変わる予定はない。
「てかワックスって。高校デビュー?」
「うるさいなぁ」
ほぼ同じ身長のせいで視線の高さが同じだからか、目をまっすぐ見られると妙に照れて視線を泳がせてしまう。高校デビューなんて大袈裟なものじゃないけど、とりあえず高校生男子はワックスの道を歩むのだ。
「こたのサラサラな髪好きだったんだけどなぁ」
残念そうな華に僕はえっ、と目を見開いた。そんな話は初耳だ。
「な、なに」
「今の髪型変かな!?元に戻したほうがいい!?」
「変じゃない……てかいつもと大して変わんないよ。本当にただワックス付けてベタベタしてる感じ。もうちょっとセットの練習が必要だね」
ああ、髪型じゃなくて髪質の話か。
僕はわざとらしく不機嫌そうにわかってるよ、と言った。
「ハンカチ、洗って返すね」
「え、いいよ」
「ううん、洗わせて。少しでも女子力高くしないと」
「今さら女子力?遅いんじゃない」
そんな僕を無視して華は再び案内板に目を向ける。
「えーっと、翠玉館(すいぎょくかん)は白星高校側だから南口のバス停からバスに乗るんだよね。とりあえず行こっか」
またガラガラと音を立てて2人分のキャリーケースが引っ張られていく。
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