1.栄坂-琥太郎

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「それにしても、って。学力的な話のこと?」 「それもあるけど」 「ちょっとは否定してよ」 「だってこたのテストの点じゃ行けるとは思ってなかったから」 「そりゃめちゃくちゃ頑張ったからね」 「よしよし」 彼女は僕の頭を犬にするかのようにわしゃわしゃと撫でる。ちょっと、と一応反抗してみるけれどそれは建前上の話で、僕はこうして華にかまってもらうのが好きだ。 「ワックス付けてるからベタつくよ」 「わ、ほんとだ」 少し目を丸くして手の平をこする華に僕はハンカチを渡す。大丈夫、と断る華にいいから、と強制的にハンカチを握りしめさせた。どうせ華のハンカチはショルダーバッグの奥深くにくしゃくしゃになって眠っている。それなら僕のを渡したほうが早い。 華にはあまり女子力というものがない。その原因は僕にあるといっても過言ではない。 自分でいうのもあれだけど、僕はそんじょそこらの女子よりも女子力がある。 ハンカチ・ティッシュは常に完備してるし、絆創膏に消毒液だって持ってる。 そんな僕に小さい時から華は頼りっぱなしだった。 なにかあるとすぐそばに僕がいた。それはこれから先も変わる予定はない。 「てかワックスって。高校デビュー?」 「うるさいなぁ」 ほぼ同じ身長のせいで視線の高さが同じだからか、目をまっすぐ見られると妙に照れて視線を泳がせてしまう。高校デビューなんて大袈裟なものじゃないけど、とりあえず高校生男子はワックスの道を歩むのだ。 「こたのサラサラな髪好きだったんだけどなぁ」 残念そうな華に僕はえっ、と目を見開いた。そんな話は初耳だ。 「な、なに」 「今の髪型変かな!?元に戻したほうがいい!?」 「変じゃない……てかいつもと大して変わんないよ。本当にただワックス付けてベタベタしてる感じ。もうちょっとセットの練習が必要だね」 ああ、髪型じゃなくて髪質の話か。 僕はわざとらしく不機嫌そうにわかってるよ、と言った。 「ハンカチ、洗って返すね」 「え、いいよ」 「ううん、洗わせて。少しでも女子力高くしないと」 「今さら女子力?遅いんじゃない」 そんな僕を無視して華は再び案内板に目を向ける。 「えーっと、翠玉館(すいぎょくかん)は白星高校側だから南口のバス停からバスに乗るんだよね。とりあえず行こっか」 またガラガラと音を立てて2人分のキャリーケースが引っ張られていく。
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