1.栄坂-琥太郎

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同じ大きさのキャリーケースを持っているはずなのに華はやたらと身軽に、余裕で持ち上げていた。なぜなのか聞くと重いものは事前に全部宅配便で翠玉館に送り、軽いものやすぐに必要なものだけキャリーケースに入れてきたから楽らしい。そっか、僕もそうすればよかった。 「あはは、夏じゃないのに汗だくだね」 先に座って涼しく笑う華に僕は苦笑をかえすしかなかった。 僕たちはバスに揺られ、無事翠玉館に着いた。 出迎えてくれたのは大家さんである斎藤さん。朗らかなおばさんで、僕たちを労ってくれたあと、部屋に案内してくれた。 翠玉館は平屋の建物で、ど真ん中に中庭がある。 言葉で説明しようとすると難しいけど……その中庭をぐるりと囲むように部屋が造られていて、中庭に面している廊下が縁側を兼ねていた。 翠玉館を真上から見るとロの字型ということになる。 部屋は全部で9つ。1つの廊下に対して部屋が3つある。 華は正面玄関から見て一番左奥の角部屋、僕はその左隣の部屋だった。つまりは僕も角部屋なんだけど。 斎藤さん曰く今年の新入生は僕たちとあと1人男の子がいて、計3人らしい。 お昼をまだ食べていなかった僕たちはとりあえず荷ほどきはあとにして、食堂でお昼を食べることになった。今日は斎藤さんがカレーを作ったらしく、食堂に着くまでにすでにいい匂いが漂っていた。
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