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「春休みだから他の子たちは今実家に帰ってるの。今翠玉館にいるのはあなたたちと長嶺くんだけなのよ」
どうやら長嶺くんというのが僕たちと同じ新高校1年生の男の子らしい。先に食堂で食べているとのことで、斎藤さんを先頭に少し緊張しながら食堂に足を踏み入れた。
食堂の真ん中にある木目調の大きい机で一人、カレーを食べていた男の子は僕たちの存在に気がつくと顔を上げた。
黒髪に、切れ長の涼しい目元。ただカレーを咀嚼しているだけなのにやたらと様になる。そんな美男子だった。
「長嶺くん、この2人が昨日話したあなたと同い年の子たちよ」
斎藤さんがにこやかに話しかけると一拍おいてから彼は状況を理解した。
口に入ってるカレーを飲み込むとその場で立つ。背の高さとすらっとしたスタイルの良さはまるで漫画に出てくる登場人物のようだった。
「長嶺涼(ながみねりょう)です。よろしくお願いします」
軽く会釈した彼に続いて華が自己紹介して、僕もそのあとに続いた。
斎藤さんは僕たち2人に彼の前に座るよう促し、食堂の奥にあるキッチンへと消えた。
3人の間には沈黙が続く。唯一の音といえば彼のスプーンがカレー皿に当たった音ぐらいで、誰も口を開かなかった。
気まずいというよりは、どうしたらいいのかわからなくて若干困っている。少なくとも僕と華は目配せして同じ気持ちだとわかったけど、目の前の彼はといえばわからなかった。
黙々とカレーを食べるばかりで、感情が読み取れない。見た目も手伝ってクールな雰囲気だからか、近寄りがたいなあ、というのが正直な印象だ。
「はい、お待ちどうさま」
斎藤さんはカレーを二つ置くと、「これご自由にね」と机の上にあるらっきょうと福神漬けを指差した。
「こたは福神漬けオンリーだもんね」
「華はらっきょうオンリーだもんね」
「ちょっと、真似しないでよ」
「ちょっと、真似しないでよ」
「ねえ!」
華が肘で小突いてくるから応戦する。繰り広げられる小学生の喧嘩のようなやり取りにも長嶺は一切顔色を変えなかった。
対して斎藤さんはくすくすと笑い、「仲良いのねぇ」と微笑んでいた。
そうだよ。僕と華は仲良いんだ。
それはそれは、とても。
たとえ僕が華にわんちゃん扱いされようがなにされようが。
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