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その時、俺は思ったのだ。
深夜に目がさめて、突然、思ったのだ。
「おでんが食べたい。なんとしても、どんなことをしても、どんな犠牲をはらっても、おでんを食べなければならない」
と。
しかし。悲しいことに、うちにはおでんの具になりそうなモノは何にもない。
タマゴひとつ、ありはしないのだ。
それに、それにだ。俺が今、モーレツに食べたいのはダイコンでも、しらたきでも。ちくわでも、キンチャクでも。ましてすじ肉や、つくねなんかじゃあ、ないんだ。
『くんぴのたりうを』
こいつが、とてつもなく食べたいのだ。
どうすればいい? いや、答えは一つに決まっている。
コンビニだ。コンビニに行くしかない。数日前から、おでんを、やっているはずだ。
すぐに食べるには、深夜であろうとなかろうと、コンビニに行かなくては。
そうだ! コンビニへ行こう!
善は急げで、俺は街灯だけが輝く、深夜の道路に飛び出すんだ。
一番近くのコンビニは、徒歩で約10分。車もバイクも自転車もないから、歩いてーーいや、走ってもいいんだけれど。とにかく自分の脚だけが頼りだ。
このあたりは郊外住宅地だし、この時間にうろついている人間は俺くらい。
ただ、問題は色々あるんだ。いやいや、金の話じゃあない。強盗や暴走族や生き残っているオヤジ狩りのたぐいでもない。
コンビニまでは、くだり坂の一本道。間に一か所、カーブがある。
そこにはたいてい、『道障り』が横たわっている。
長い長い丸太のようなヤツで、どちらの端もわからないくらい長いんだ。
それでいて、よくわからない油でまみれているし、こいつに触れるとオシマイなんだ。俺はオシマイになったことがないからよく分からないけれど、とにかくオシマイになってしまう。
オシマイになったら、おでんを食べられないじゃあないか!
おでんを食べられないなんて、ありえないじゃあないか!
おでんを食べられないなんて、あんまりじゃあないか!
だから、どうにかしなくちゃならん。
まあ、こいつはようするに、触れないよう、細心の注意をはらって跨げばそれでイイ。
しかし、『道障り』は一匹?だけとは限らないし、どこからでも襲ってくる『スイスイ』だって、厄介だ。
後頭部を、いやというくらい、どつくから。
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