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「よし、表の掃除はこんなものか」
少年はグッとノビをして、周囲を見渡した。駐車場もゴミ箱も申し分ない清潔感が漂っている。
満足げに頷くと、店内に入り商品整理を始めた。
この店に雇われてから、早数日が経過している。
仕事にも幾分か慣れ、自分ではいっぱしの店員気取りだ。
時刻は一七時。
閉店までの四時間が、少年に課せられたシフトだった。
「……今日も暇だといいな」
ここは小さな町にありがちな、いわゆる個人経営のコンビニエンスストアだ。
便利ではあるのだが、この辺りには学校や事務所など人の集まる施設がなく、客足はかなり微妙だった。
はっきり言って、なぜ経営が成り立っているのか不思議なほどだ。
ここをアルバイト先に選んだ理由のひとつであるが、そう甘くはないらしい。
「…………」
ひょろ長い体躯で、ワカメのようなぼさぼさ髪に丸メガネの男が入店してくる。
「いらっしゃませ」
「っ!」
少年がマニュアル通りに声を掛けると、丸メガネの男はびくりと体を震わせた。
瞳だけを動かし、じろじろと睨め付けてくる。
(ヘ、ヘンなこと言ったかな?)
「…………」
少年が身構えていると、丸メガネの男は何気なさを装い店内をぶらつきはじめた。
(なんだ、ひやかし客か……)
思い過ごしだったと胸をなで下ろす。
「くそ!」
が、一転。丸メガネの男は意を決したようにカウンターへ詰め寄った。
少年が反応する間もなく、切迫した顔で訴えてくる。
「おい “才能”をくれっ」
「え?」
「ち、やっぱバイトじゃダメか。店長は居ないのか?」
店長である男は、いつもなら顔を出す時間帯ではない。
どこでなにをしているかは不明だが、閉店間際にふらりとやってくるだけだった。
「あの、店長でしたら――」
今日もそうだろうと口を開きかけたとき、
「申し訳ありませんお客様。さあ、こちらに」
レジ横のスタッフルームから店長が姿を現した。
「ああよかった。一時はどうなるかと……頼むよ店長」
「かしこまりました」
目を細めた店長にうながされ、丸メガネの男はスタッフルームへ連れ立っていく。
「キミはレジを頼むよ」
「あ、はい」
店長は暗に来るなと釘を刺していった。
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