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「ちょっといいかな」 「なんでしょうか店長?」  働きはじめて数週間が過ぎ、例のやりとりもすっかり慣れた頃。店長が珍しく声を掛けてきた。  商品の日付を確認していた手を止め、少年は背後を振り返る。 「あ」  店長の脇には、見知らぬ女の子が立っていた。  歳は同じくらい。前髪を揃えたショートボブでやや薄い黒髪。まぶたは眠たげに半ば閉じられていた。  年齢のわりに薄い胸元、線の細い体躯が庇護欲を抱かせる。  どこかミステリアスな雰囲気に、少年はひと目で捕らわれた。 「紹介しよう。新しいバイトだ」 「よろしく……」  淡々とした、けれど透き通るような声色。少年は少女にとても似合っているなと思った。 「う、うん……よろしく」  なにか気の利いたことでも言いたかったが、もともと人付き合いは上手くない。  迷っていると、すぐに時間切れになった。 「シフトはキミの前を担当してもらうことになった。明日から頼む」  店長が告げ、少女はぺこりと頭を下げる。  慌てて少年も頷いた。  ふたりは一言二言交わし、スタッフルームへ引き上げていく。  離れていく少女を見つめ、少年は期待に胸を膨らませた。
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