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序章
雨上がりの蒸し暑い夜、一人の男が家路へと急いでいた。
月明かりも無く、人ひとり歩いていない夜更けの道には、男の足跡だけが響いている。
こんなに遅くなっちまうなんて・・・
『蛍が飛び交う雨上がりは、その光に誘われるように魔界の扉が開く…』
足早に夜道を急ぐ男の脳裏を、ある伝説が掠めた時だった
ヒタ…
ヒタ…
ヒタ…
背後から小さな足音が聞こえてきた。
こんな夜更けに俺以外の誰かが歩いている?まさか・・物の怪?
そんな不安が男を襲った
徐々に距離を縮めて来る足音に、男は振り向きもせず歩く速度を上げた
ドクン…
ドクン…
得体の知れぬ足音に恐怖を覚えながらも、振り返りその正体を確認すれば更なる恐怖が襲うのを知っていた男は、やがて小走りになった
だが、男の耳に残る自分の物では無いもう一つの足跡も、男との距離を更に縮めていく。
はぁ…
はぁ…
はぁ…
速度を上げる男の息が荒くなり、静寂(しじま)の中に響くかの様に心臓の音が、大きく男の耳に届く。
ザッ!
ザッ!
ザッ!
足元の草が踏みにじられ倒れて行く音が、男のすぐ後ろまで迫ってきた時…
うわぁ~っ!
例えようのない恐怖に、男は脱兎の如く走り出した。
逃げなければ、殺される…
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