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プロローグ 君の遺した奇跡
どれほど乞うても時間はちっとも待ってくれない。その歩みを停めてくれない。
カウントダウンは無情で突発的で――いつだって一方的。
『光陰矢の如し』とはよく言ったものだと思う。しょせんは短い人の世に『永遠に存在』するものなど有り得ないのだ。
それを神代奏はよく知っている……はずだった。
『準備はいいかい? アイリス』
おずおずと手持ちの液晶パネルのキーボードを叩き、奏は一通のメッセージを送信した。返事はいつも数秒と待たず耳へと届く。
「いつでもいけます」
いつも通りのイヤフォン越しでも淀みなく澄んだ音。アイリスだ。
『あの、アイリス……』そこまで打ち込んだところで止まる指。
目の前に映像でもあれば首を傾げていたろうか。しかしそんな想像もすぐに無意味になる。
突如として、ごちゃごちゃと機材の置かれた室内の照明が一斉に落とされたからだ。それは奏の目の前に垂れ下がる分厚い黒い幕、緞帳の先も同様で。
突然の暗転に反し、無数の人々の期待と歓喜の声が無効の世界から響いてきた。――時間だ。
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