契約

6/9
前へ
/355ページ
次へ
「だから適任なんだ。そういう感情抜きでやってほしい仕事だからね。もちろん身体の関係なんて必要ない。今言った条件を守る以外は、キミは普段通り過ごしてくれればいい。そして、キミがこの仕事を辞めたくなったら、一言申し出てくれればすぐに契約を解除する」  ……なるほど。  つまり、コイツ好みの観賞用ペットになる……ってことか。ざっくり要約すれば。  でも……まあ、いいんじゃないか。  俺は、想像したこともない未知の経験がしたかったんだから。それこそ自分の望み通りだろう。  条件は悪くない。……むしろ、この上なく興味深い仕事が転がり込んだと言ってもいい。 「ーーじゃ、俺からも質問させてください」 「何でもどうぞ」 「あなたはどうして、こんな奇妙な相手探しをしてるんですか?奥さんとかそういう人、いるんですよね?」 「婚約者は一応いるよ。親が決めた、ね。でも、彼女を愛してるとかそういうのじゃない」  神岡は、表情ひとつ変えないままそんな言い方をする。 「……僕も、キミと一緒だ。親が決めた通りの道を歩いて、このまま結婚して会社を継いでーーそれが面白いのか?と……ある日、思ってしまった」  初めて見る静かな眼差しで、彼はそう呟いた。 「自分が好きなことやしたいことなんて、結局一度もやったことがなかったんだなぁ、って気づいたらーー急にいたずら小僧みたいな気分がムズムズしてきてね。     
/355ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1772人が本棚に入れています
本棚に追加