1771人が本棚に入れています
本棚に追加
男の後ろ姿を見送りながら、一緒に清掃に入る村上君が憧憬のまなざしで呟いた。
「あの車の持ち主、かっこいいよなぁ!ちょっとクールで冷たそうだけど、そこがまたいいよね……オーラがなんか違うよな。何やってる人だろ?」
「ん、かっこいい……?そうだった?」
「三崎君、さっきあの人と話してたじゃん!一体どこ見てんだよ?」
「車とスーツと、腕時計と靴」
「キミさあ……まあ、そんなとこが変わっててキミらしいけどさ」
俺は、大抵の人から「変わっている」という評価を受ける。自分でも変わったヤツだと自己評価しているから、その点は少しも異論はない。
「そんなことより仕事しよ。こんな高級車触れるなんて幸せだよなー」
「うん、そうね……三崎君のシアワセ取っちゃ悪いから、俺は休憩してようかなあ」
「店長に告発して減給してもらうぞ」
「うえー冗談冗談」
車内はキレイで、掃除の必要もないと思われるほどだった。だが手は抜かず、マニュアル通りに清掃業務を行う。
品のいい仕様の車内に、ほのかで穏やかなホワイトムスクの香りが漂っている。
なんて心地いい空間だろう。
半ば夢心地で作業をしていた俺の耳に、店長の声が入って来た。
「三崎君ー。ちょっといいかなぁ?」
「はい?」
業務中に、何の用だろう?
もしかして、何か仕事ミスったかな……?
微妙な焦りを感じつつ、俺は店長に呼ばれるまま店舗の中へと戻った。
「ああ、三崎君ちょっと……キミに話があるって……あのお客様が」
店内に入ると、店長がちょっと戸惑い気味な顔で俺に囁く。
「は??誰が……」
「時々ウチを利用してくださるお客様なんだけどね……いつもなんか近寄り難い空気で緊張してたんだけど、やっぱりすごいお偉いさんだよ……君、まさかあの人に何か失礼とか、失敗とか……しちゃってないよね!?」
店長が恐る恐る示す方を見ると。
さっき噂をしていた、あの車の持ち主がーー喫茶スペースの椅子から立ち上がって俺に会釈をすると、表情を変えずにその長い脚で大股に近づいて来た。
最初のコメントを投稿しよう!