契約

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「……さて」  彼のベンツは、近くの公園の人気のない駐車場で止まった。 「……ここで話すんですか?」 「わざわざ面接場所を探すこともないかと思ってね。ここでは不満かな?」  そう言って、神岡は淡々と微笑む。 「……いいえ」  俺は、小さくそう答えた。  俺は、半端じゃなく緊張していた。  村上君も店長も口を揃えて言っていた、冷たく近寄り難い雲の上の大企業副社長が……一体俺にどんな話をするのだろうか。 「改めて、自己紹介しよう。僕は神岡工務店社長の息子で副社長の、神岡樹といいます。歳は29。どうぞよろしく」 「……三崎柊です」 「僕の用件を話す前に、少しだけ質問をさせてもらってもいい?」  神岡は、履歴書に目を通しながら俺に問う。 「……はあ……」 「沢木店長も言ってた通り、文句のつけようのない履歴書だね……そんな秀才クンが、なんでフリーターしてるの?」 「別に秀才じゃないです。……普通に就職する意味が、よくわからなくなっただけです。何か、経験したこともない世界を見てみたいような……漠然とそんな気持ちで」 「なるほどね。それ、よくわかる」  俺は、少し驚いて彼を見た。     
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