7人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
結婚して三年が経った春のこと、夫はこの世を去った。
何がいけなかったんだろう。
知らないうちに無理をしていたのだろうか。
それとも元よりそういう運命だっただけなのだろうか。
医者は言う。
「こう言ったことは誰にでもあるんですよ。若い人にだってあり得ることです。」
まるで単なる確率の問題だよとでも言いたいのだろうか?
その確率に当てはまる何%の人達だけが突然にその命を終わらせてしまう。あなたのご主人はその何%の内に入ってしまった人なんですよ、と。
彼はパティシエだった。
パリ市内にある有名店で二年もの間、修行をした後帰国してお互い離ればなれになっていた時間を埋めるべく直ぐに結婚した。
そして、小さくとも自分の店を持つと言う彼の夢はいつしか私の夢となり私達はその資金を貯める為に必死に働いた。
当然、子供を授かる準備も余裕もなかった。
けれど、それでも幸せだった。
私達にはこれからいくらでも時間がある。
夢がある。
先ずは店を持つという夢を叶え、子供の事はそれからでも全然、遅くはないと考えていた。
が、ある時、それらの夢は意図も簡単に崩れ落ちていった。
世界中でたったひとりぼっちになった気分だった。
その時に初めて思った。
彼がこの世から居なくなった今となってはやはり彼に似た忘れ形見が欲しかった。
どうしても。
一人じゃないんだ、という確かな証がこの手に欲しかった。
親兄弟達は子供が居なかった事を【救い】だと言った。
【救い】ですって?
何からの?
籍に傷は付くが大した事ではないと私からすると随分、的外れな励ましをされた。
もちろん、私の事を思っての事と理解は出来るものの、だからと言ってそんな風に実際思うなんてことは出来ない。
そんな風になんてーーー
決して思えない。
最初のコメントを投稿しよう!