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政略見合い
「お嬢様、とてもお美しゅう御座いますよ」
薫子の生まれる前から櫻井家に仕えるばあやが鏡で薫子の着姿を確認しながら、ほぉっと溜息をついた。
この日の為に用意された鳥の子色を背景に深緋色の山茶花が鮮やかに描かれた加賀友禅の着物を纏った薫子は、ばあやの言葉に返すように鏡越しに微笑んでみたものの、その表情は晴れることはなかった。
ついに、当日を迎えてしまったのね……
時の経つ速さが人や感情によって速く感じたり、遅く感じたり、変わることはあっても決して止まることなどない。
生きている限り、いいえ、自分の生死に関わらず時は確実に刻まれ、どんな人にも平等にやって来るもの。
滅多に顔を合わすことのない父から部屋に呼び出されたあの日。
何か、悪い事が起こりそうな予感を感じていた。
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