平成☆シックスティナイン

10/63
前へ
/63ページ
次へ
 ある日、そんな若くして亡くなったヒーローたちの頂点、ジミ・ヘンドリックスなる偉人が天国より降臨し僕に憑依し、そして猛烈にエレキギターを欲するのだと、母親に主張したのだ。  あくまでこれはその場で取って付けた僕の妄想ではあるが、兎にも角にもギターが欲しかった。理由はなんでも良かった。  つまり「買ってくれないと若くして死ぬ」と親に泣きついたのだ。これがおねだり大作戦の全容である。  春先、母の作ったべしょべしょのケチャップスパゲティを食べた後、連れられて行った近所の商店街。太陽は少し傾き始め、アスファルトに篭った熱は、今が冬でないことを知らせる。  商店街の共同駐車場からそば屋を隔てて、とても申し訳なさそうに建っていた小さな小さな楽器屋。停車した親の軽四ダイハツムーブから降りると、『練習スタジオご利用のお客様へ。当店の駐車場以外は使用しないでください』と共同駐車場の看板に書かれていた。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加