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生まれて初めて入店する楽器屋は、初老の夫婦二人が経営していた。もっと大きなところに行きたかったが、親と行動を共にするのが、年頃男子としては酷く恥ずかしかったので、都会へは出向きたくなかった。
決して裕福な家庭ではなかった為、ショーケースの中に飾ってある木目のギターは値段を見て即座に諦める。代わりに敬愛するギタリストと同じシェイプのギターを最初に選び試奏する。もちろん人前で演奏するほどの腕前はない。しかしだ、そのキャンディみたいに真っ赤なギターに、僕は自分がステージに立つ姿を想像してニマニマした。
「わー、へったくそー」
再びジミヘンが憑依し、僕が一人悦に入っていると、店の二階から下りてきた女の子数人が、こっちを観て笑っていた。僕よりもほんの少し若そうである。
「おばちゃん。この子たちは?」
「二階でね、ヤマハの先生が音楽教室やっているのよ。そこの生徒さん」
おばちゃんは優しそうに笑うと、レッスンを終えた女の子たちに飴を配る。「ありがとー。おばちゃーん」と、女子たちは自分の口に飴を放り込む。
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