黒髪の神官長

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 初めこそ抵抗したが、幾晩も時間をかければかけるほど身体は熟れた。今では自身の陰茎を切なげに立ち上がらせ、糸を引いて滴った先走りがシーツに丸い染みをいくつも作っている。  絹のような黒髪を唇に当て、ジャムシードはその持ち主の嬌態を眺めた。  体位を変える度に、手元の髪が逃げるように滑り抜けていく。ジャムシードは髪を握り締めると、引き留めるように手前に引いた。 髪の持ち主が痛みに声を上げ、引かれるままジャムシードの前に頭を投げ出す。黒髪の間から苦しげな素顔が晒される。白い肌は上気し、アーモンドの花のように柔らかに染まっていた。  地響きのように船底から板の軋む音が聞こえた。テーブルの上のワインが揺れ、波の荒さを伝える。  航海は明日で四日目。明日の昼には本国へ着くはずだ。 「アルスの神官長、アディスよ。そろそろ音を上げろ。それがお前のためだ。これ以上の責苦は、高貴な身には耐えられまい」  髪と同じ、吸い込まれるような黒い瞳が涙にうるむ。アディスの瞳に見つめられる度に、ジャムシードの心の内は波立った。  国を失う悲しみや恨みのこもった視線、屈辱の責め苦を受ける悔しさの涙ならば、ジャムシードは幾度も目にしてきた。しかし、己自身に失望の眼差しを向けられるのは初めてだった。 「気に入らない目だな」     
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