贅肉の繭に包まれて。

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 成人したわたしは、これで正々堂々夜の街に溶け込めると、知人の勧めでクラブなる場所へ顔を出すようになった。そもそも芋虫クラブ所属だったわたしは、クラブという言葉に偏見をもっていて、どうせそこは悪の巣窟で、山羊の仮面とか被った、怪しい輩が、毎晩生贄を捧げ、如何わしい儀式でもしているもんだと思っていたのだ。  嫌がる千明を無理やり連れ出し、未体験な悪の巣窟に潜入する。ウォッカで薄めたレッドブルが、わたしの理性をぶっ飛ばし翼を与える。芋虫がついに念願の翼を得たのである。痺れるような爽快感。その音の一体感。酔いしれる宴に、明日死んでも構わないなどと思った。  リノリウムの床材が敷き詰められたこのフロアは、一つのコミュニティでありコロニーである。培かった人心を垂らし込める(すべ)を駆使して、仲間を一人また一人と増やしていった。  千明は「こういう所は、苦手なんだ」と、最後まで嫌がったが、無理やりテキーラを押し付け、罪と罰みたいな酒を飲み交わし、エレクトリックな音と空気に踊り狂った。
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