贅肉の繭に包まれて。

22/27
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
 残念なことに、不感症のわたしは、ママに見せられないどんな行為をされても、何も感じなくて、悲しくなって、泣きながら、「お願い。首を絞めて」と強請ると、彼の細い指先が、わたしの首を優しく優しくゆっくり絞めて、息が出来なくなる。苦しくて、涎が垂れて、意識が朦朧として、やっとそこで彼にわたしが与えてきた、孤独を知ることが出来た気がした。  芋虫の頃は、自分が蝶になれると思っていた。まさか自分が将来醜い蛾になるだなんて、思いもしなかった。  涎と涙と毒の鱗粉を垂れ流しながら、千明の背中に爪を立て、彼の背に血が滲むほど強くすがった。わたしはきっと、離れていく千明を繋ぎ止めていたかったのであろう。赤く腫れてめくれ上がったわたしの羽根。けばけばしい(まだら)のそれを一生懸命羽ばたかせ、粘膜から引く、この光る糸を集めて紡いで繭にして、彼を閉じ込めたかったのかもしれない。  千明。千明。ちあき。ちあきちあきちあきちあきちあきちあきちあきちあきちあき。  何度も何度もわたしは、ケダモノみたいに跨りその孤独を捕食する。行き場のない彼の脈打つ静かな怒りが、ジンジンとわたしの奥に入ってくる。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!