贅肉の繭に包まれて。

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 その日からわたしと千明は、どちらとも無く、ぱたりと会うのを辞めた。  わたしの存在は千明の過去となる。わたしは彼を自分の日記帳か何かだと思い、蔑ろにしてきたのだ。わたしに彼と歩む資格はない。それに彼に縋るのが、悔しいのだ。  千明と離れてから、無理して痩せたわたしの体に、随分と遅れてリバウンドがやってきた。きっかけは抗精神病薬であろうか。久しぶりに、ヘルスメーターに乗ってみると、体重が四キログラムも増えていた。たったそれだけなのに、わたしの自尊心の繭は、膨れてしまった身体の体積と反比例してシュワシュワと萎んでいった。  誰にも会いたくない。誰にも覗かれたくない。誰にも視られたくない。何も観たくない。わたしは再び繭で心を閉ざし、誰の目にも触れないようにした。繭の中、声を枯らして泣いていた。クラブどころか、コンビニも行けなくなった。 眠れなくなった。  鏡に映る自分が醜くて、自分を戒めるために買ってもらった鏡だって、ばりばりに割ってしまう。  心根がぶくぶくと太りすぎて、その重みで、もう立ち上がることも困難であった。何も手に付かず部屋は荒れ放題。数ヶ月であっという間にゴミ屋敷が出来上がった。室内という繭の中は、獣の臭いがして鼻が曲がりそうであった。
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