贅肉の繭に包まれて。

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◇ ◇ ◇  「良かったよな。打ち所悪くなくて」  大学病院の敷地内にある広場の脇道、車椅子を押されるわたし。そしてそれを押すのは千明であった。一体どの面を下げてわたしの(もと)に現れたのか。  若草色の芝生が生える広場は、大学病院の敷地内にあり、その隣にあるヘリポートに数台のヘリが並んでいた。千明はゆっくりとわたしの車椅子を押しながら、しゃべり続ける。こんなにお喋りなやつであったであろうか。  「俺さ、就職先決まったんだ。地元離れることになる。たださ、これっきりなんて、嫌だったからさ」  わたしはとんだかまってちゃんであった。今思えば、あの程度の高さで、命を失う可能性は、随分と低かった。わたしが飛び降りて一番に心配して、一番に駆けつけてくれたのは、他ならぬ彼である。親にも連絡を取ってくれた。ぐずぐずとわたしの目の前で泣いてくれた。やっぱりこいつは今も変わらず泣き虫であった。変わってしまったこと。変わらないこと。それを見誤り、わたしも彼も大切なものを失った。
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