贅肉の繭に包まれて。

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 「お前のこと鏡だと思っていた。自分を映す鏡だと」  「そっか。鏡かぁ。わたしは日記だと思っていたな。千明のこと」  久しぶりに千明と話した。千明の声は落ち着くのである。  あの日、自ら割ってしまった鏡は、二度とは元に戻らないけれど、一生懸命に、欠片を拾って並べて貼り合わせた、継接ぎだらけのその鏡は、もしかしたら過去ではない次の未来を映し出すのかもしれない。  きっとこれから先も何らかの答えを出すのに、ハタチそこそこのわたしたちは未熟で、何が必要で、なにが不必要なのかを見極められないであろう。だけれど願わくば、この右足のギブスの繭が(ほど)ける頃、わたしたちの関係の謎がほんの少し紐解ける頃、わたしは再び呼吸をしてみたかった。  「お昼食べた? 今日水曜日だからカレー食べよう。院内の店だけどカレー食べに行こうよ」  飛び立つドクターヘリを見送るわたしたち。いつの日か再び彼の側に立ち、鏡として映し出せるよう、少しだけ栄養を蓄え頑張ってみようと思った。 了
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