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山科ストアの福猫
下町の朝は、都心よりも早い。新宿や渋谷の五時過ぎならば、ほとんど誰も歩いていない。辛うじて歩いている者があれば、ほぼ例外なく酩酊しきっている。昨夜から呑み続け、これからベッドへと向かうのだ。それに比べ江東区では、今ベッドから街へと出てきたばかりだ。
分厚いガラス越しに見える深川資料館通りには、仕事に向かう多くの男女が行き来している。六月にしてはカラリと晴れた空からは、過剰な陽光が滴っている。
作業着を身につけた、がっしりとした体躯の若者。地下鉄に向かうスーツ姿の男女も多い。通りの向こうでは、いつもの前掛けにサンダル姿の花屋の女主人が今日もアスファルトの清掃に励んでいる。
深夜番も終わろうというこの時間は、山科ストアにとっては、稼ぎ時である。ペットボトル飲料、パン、弁当。その他にもストッキングや煙草といった利幅の大きな商品が売れる。昨日からの疲労はあるものの、この忙しさは、心を浮き立たせる。今日の相棒の先崎くんは、嬉しそうにしている楓のことが理解できないらしい。大型台風が近づくと妙にときめくあの気持ち、多分それも分からないのだろう。
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