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「……すぐに決断と言うのは難しいとは思いますが……」 白い部屋。 白い服。 「命に関わることですし……」 白々しい表情。 「なるべく早く決めて……」 ーー何度、その言葉を口にしたの? 「ーーわかりました。考えておきます」 早く、この場を去りたくて説明を最後まで聞かずに席を立った。 ーーきっと、最初から答えは決まっていたのだから。 例えば。 「おばーちゃんコレ買って」 小学校低学年くらいだろうか。 小さな子供と、おそらくその祖母。 子供が差し出す食玩を、お母さんにはナイショだよ。そう言ってスーパーのかごの商品の中に潜り込ませる祖母。 なんとなく。 いつも寄る駅前のスーパー。 必要なものなどなかったけれど寄るのが習慣になってしまっていて、気づけばかごを手に持っていた。 そんなときに見た光景。 よく見ると言えばよく見る光栄に、もしも自分に祖母がいたなら幼い頃にこんな経験もあったのだろうかと考えた。 例えば。 専門書の棚。 本を読むのは好きだった。 出来れば獣医になりたいと思っていた。 どれだけ読んだところで獣医になどなれるはずがないとわかっていてもそれでもかつての夢にすがりつきたい時もあった。 何か、目新しい本はあるだろうか。 日曜の午後。 自宅の隣駅の駅前にある大きな図書館。 そこの読書卓で解剖学の本のページをめくる。 偶然にも隣に座った、少女と女性とその曖昧な境界線上にいる年齢の彼女も、獣医学の本を読んでいた。 それはかつて自分も手にした本だった。 彼女はあの大学の学生だろうか。 電車で1時間弱、あの大学には獣医学部があったはず。 家計に余裕のある家に産まれていたならば、自分は彼女の先輩になれていただろうか。
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