漆黒の夜の腐海で今日もコンビニは、24時間営業中!

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「俺がおごる。好きなだけなんでも買っていい」 「あざーっす」 「ああ、一矢先輩がいるから、挨拶して入るように」 屈強な肉体。150キロは投げれそうな肩。坊主頭。 そんな長身で野球のユニフォーム姿の男たちがいた。 「あのう、美波ちゃん」 店長が恐る恐る聞くと、隣の彼氏が『ああん?』と睨む。 そうだった。もう少し他人行儀で名前を呼ばないと死ぬんだった。 半分死んだな。店長はへらりと笑った。 「来るぞ」 山田の声に、コンビニ店員三人は息を飲む。 自動ドアが開いた瞬間、一列に並んだ野球部員たちが、かっちゃんに一礼して挨拶して入ってくる。 かっちゃんも甲子園に行けない系野球部だったようだ。 「否(いな)!」 一人目の客に、山田はそう叫んだ。魂を分け合う聖戦のパートナーではなかったようだ。 「受!」 美波も性癖を叫ぶ。 店長も芋を引けない。 「っせ!」 三人は、負けられない戦いを今、始めたのだ。 「否! 否! 否! 否! 否! 可!」 無駄無駄無駄と叫びそうなほどいい声で山田が叫ぶ。 可の意味が気になる。 「受、受、受、えーとリバ! 攻、受!」 叫ぶかのような声で、雄か雌を仕分けていく。 リバの意味が怖くて聞けなかった。 「っせ、せ、せーいせいせい、せー、っせせー! せーいっ」 店長もゲシュタルト崩壊した挨拶をする。 最後の一人の時、三人の声は一つになった。 「否!」 「攻!」 「っせ!」 勝負は引き分けだった――。 三人は額に汗を浮かべながら、笑いあった。 これが、コンビニのありふれた一コマである。 やりとげた三人は野球部に買い尽くされたお菓子や飲み物、揚げ物の補充に、輝く汗を流したのは、また別の話である。
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