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ところどころ切り刻まれたタンクトップに、色褪せたり汚れたようなペイントをしている包帯、そして手の甲に浮かぶ、選ばれた者の印である聖痕。
男は包帯を巻かれた手を、痛そうに手で覆い、苦し気に入店してくる。
「っく。追手がもうすぐそばまで来ていた。なんとか逃げたが、――早くもう一人の選ばれしものを探し出さなくては」
「え? 追手から逃げてきたのに包帯巻く時間あるとかやばくない? 遅刻の理由にしては受けるんですが、堕天使は黙ってれば美形なので受けで」
「君の前世からの聖戦はともかく、10分の遅刻です」
「くくく。俺の愛車、ジークリートm123号が敵のせいで廃車になってな。死ぬ気でここまで来ただけ、ほめてもらえるか」
「あー、今日、電車が事故で遅れてましたよね。単車で転んだってこと?」
「物は言い様ってな」
二人の塩対応に、苦悩の表情を見せる堕天使こと、山田。黙って立っていれば、180センチの長身と、漆黒の長髪、堀が深く整った顔立ちでモテる。
偶に知らずに入店した女性はだいたい山田に見惚れる。本人も顔の美しさを子供のころからちやほやされたために中学二年あたりから『俺は選ばれし勇者。聖戦で多くの命を奪ったために堕天使になったが、過去の罪を償うために一人でこの世界を守る』という重い任務を背負っているために定職にはついていない。忙しい時期だったので採用した。
意外と細かい作業や、在庫確認、ツイッター等のSNSやパソコン作業は得意で仕事はできる。問題児かと言えば、問題児ではある。
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