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「っせえーい!」
店長がよくわからないいらっしゃいませで誤魔化すと、仕事終わりの屈強な八割受けのガチムチ作業員たちが入店しだした。
「やっべ。まじ忙しい。遅刻した堕天使ナニしてんの?」
「ふ。着替えて遅くなっていた。後ろ髪が、ボタンに引っかかり、包帯がねじれ」
「まじ面倒なコスプレすっから。はやく入って」
「これはコスプレではなく、聖痕を隠すための――」
「せ」
その瞬間、時間が止まったかと思えた。いや違う。
店長が空間の隙間に『せ』という言葉を置いてきた。添えただけだ。
右手は添えるだけ。
よって、まるでちゃんと言ったかのように見えるし、言えていないようにも感じる。
そう。そっと一文字だけで店長は言えたかのように錯覚していた。
「やべえ。店長、めっちゃ今、スマートにサボった」
「奴は時空を自由に行き来する特殊な力を隠し持っていただけだ」
「それがあれば遅刻しないね」
「お前ら――! レジ開けろっ」
遠慮なく籠に弁当やおにぎりを持って並ぶガチムチたちに、コンビニ内の温度が上がったように感じた。
「はーい。受は私。攻は堕天使に並んでくださーい」
「ふむ。さっさと俺に古から使っている数字が印刷された札をよこせ」
「お金だってば」
美波に突っ込まれながらも、ばたばたとコンビニの忙しい時間は過ぎていくのである。
「あっした――」
「やべ。両手からお金の匂い果てしなくするんだけど」
「た」
手を洗いに後ろを向く美波。その横で堕天使が店長を見る。
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