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特に新郎のすぐ手前、企業関係者の集まるテーブルは、丹下を中心として緊迫した雰囲気が絶えず流れていた。 「丹下部長。先ほどは私共夫婦のために、素晴らしいスピーチを頂戴し、誠にありがとうございます」 城山は真っ先に丹下のもとに向かうと、すかさず酌を勧めた  友人、親族も同席する披露宴の場とはいえ、四階級も上位の職制を前に慇懃とせざるを得なく、城山は笑みを取り繕った。 「いや、とんでもない。それより君、本当におめでとう」 丹下は大袈裟に城山の肩を叩きながら祝福した。 「とても綺麗な奥さんじゃないか。君も漸く一人前の大人の男の仲間入りだ」 「汗顔の至りです、小生など世間知らずの若年者ですから」 丹下は、城山のコップにビールを注いだ。 「恐縮です、まずご一献―」 献杯すると、城山は唇を濡らす程度に一滴口元に付けた。僅かに口元を綻すが、酔いを弾ますほどの心の余裕は、まだない。 「これからは仕事に家庭にと、より一層忙しくなるだろうが、今まで以上に責任感を持って仕事に邁進してくれ」 「ありがとうございます」 新婦が他の会社関係者へ酌に回る中、城山は直立したまま丹下と対面し続けた。丹下は再度、城山の肩をポンポンと叩きながら、上機嫌に会話を続けた。 「ところで君、新婚旅行は何処に行くんだい?」 「まだ決めておりません」 城山がいうと、丹下は眉の間に僅かに皺を寄せながら 「駄目じゃないか、君。そういうのはしっかりとしないと」 と激を飛ばした。 「申し訳ありません。小生の自己管理が悪いため、まとめて休暇を取るのが難しく―」 城山は、多忙の理由が会社側でなく、あくまで自己責任であることを強調しながら、謙遜して言った。 丹下の質問の声調は僅かに職場での空気を匂わせたが、反応はいつになく温和である。 丹下は、 「仕事の方は心配するな」 と微笑んだ。 丹下は声調を変えると、さらに次のように続けた。 「ところで君、暖かい国と、涼しい国、どちらが好きかな」 「涼しい国ですかね。たとえば、東欧など。プラハやザルツブルクといった絵画的な街並みに憧れがございまして、出来ることなら奮発して―」 「ほう、東ヨーロッパか。仕事一辺倒の君が芸術を嗜むとは風流だね」 二人の会話の内容を気にする様子もなく、周囲の歓談の声は徐々に大きくなっていく。 食事を提供する給士の手も忙しなく動き回っていた。
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