ひと夏のーー?

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 そりゃそうだろうなと自分にツッコミを入れて、達夫は立ち上がった。ベランダから外を見れば、大木がどっしりと根を張り枝を伸ばしている。セミが鳴くよりはやく起きたのは久しぶりだ。 「変な夢だったなぁ」  ボリボリと腹を掻いて、とりあえずシャワーを浴びようと風呂場に行った達夫は、鏡に映った首筋を見て固まった。 「こいつぁ」  首元にうっ血がある。蚊に刺されたかと触ってみても、腫れていない。あきらかなキスマークに、達夫は片頬をひきつらせた。 「夢じゃ……なかったのかよ」  渇いた笑い声をあげ、達夫は青年を思い出した。キレイな顔をしていたなと噛みしめて、シャワーのコックをひねった。ぬるま湯を浴びながら、冷たくて気持ちよかったなと思い出した達夫は、幽霊とはいえ男に抱かれたにしては嫌悪感がなかったなと、自分の気持ちに首をかしげた。 「ヤリ逃げされたってぇのによ」  つぶやいて、責任を取ると言われても困るなと考え直す。 「まあ、ひと夏の恋っつうか、夏のひと夜の思い出っつうか、そんなところと思っておくか」  こだわりもなく片付けて、髪を洗って体を磨き、ヒゲをあたってさっぱりとする。 「さて、と」     
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